これまで看護師の資格を活かして臨床で働いていたけれど、「病院では無く企業で働いてみたい!」と感じたとき、まず第1選択肢であがるのが「治験コーディネーター(CRC)」ではないでしょうか?(※CRCはClinical Research Coordinatorの略です。)
そして、治験コーディネーター(CRC)として働くことに興味を持つ時、恐らく気になるのは「CRCの資格」だと思います。
結論から先に言いますが、治験コーディネーターになるために必要な資格は存在しません!医療系の資格を持っていれば、誰でもなれます。しかし、治験コーディネーターの資格も存在するため、今後治験業界で働きたい!と思ったときに、その資格についてを知っていることに越したことはありません。
この記事では、現場で働く治験コーディネーター(CRC)の視点から、治験コーディネーター(CRC)の資格についてを紹介します。

医療職の資格を活かしながら、医療機関・
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・性格:好奇心旺盛、ネアカな引きこもり
・資格:看護師・保健師・
第一種衛生管理者・臨床検査技師
(更新せずに失効したが、過去に
JASMO公認CRC資格を持つ。)
治験コーディネーター(CRC)になると必要になる資格は?
治験コーディネーター(CRC)として働くにはどこに応募する?
まず、治験コーディネーター(以下、CRC)として働くには、2パターンがあります。
- 医療機関
院内CRCとして働く - 企業(SMO)
企業に就職し、契約を交わしている医療機関へ出向き、CRCとして働く
SMOとは、Site Management Organization(治験施設支援機関)の略で、治験実施医療機関から委託を受け、医療機関の治験業務を支援する機関(企業)のことを指します。
前者の「院内CRC」は、治験を実施している医療機関の治験コーディネーター(CRC)のことで、大学病院や大規模の病院にいるCRCをいいます。ただ、主流は後者で、治験施設支援機関(SMO)が間に入ってSMOに所属する治験コーディネーターが治験業務を支援することが多いです。
というのも、SMOは1つの企業ではなく沢山あるので、融通が利くメリットがあるからです。
たとえばA社・B社・C社という治験施設支援機関(SMO)があるとします。A社は「がん領域」に強みのあるSMO、B社は「泌尿器系」に強みのあるSMO、C社は「経験を積んだ優秀な人材(CRC)が多数在籍している」といった風に、SMO(企業)1つ取ってみても異なるのが特徴です。
そのため、治験を実施している医療機関には様々なSMO企業のCRCがいることが多い。
治験コーディネーター(CRC)として働くには何の資格がいるの?
先ほど、治験コーディネーター(CRC)として働くパターンを紹介しましたが、CRCとして仕事をするにはどういった資格が必要になるのか、気になるところだと思います。
冒頭でも言いましたが、「CRCになるために必要な資格は無い」です。
※ただし院内CRCを希望する場合、治験を実施している医療機関の内、院内CRCがいるかどうかの確認が必要。また院内CRCは、その医療機関で長年勤めているベテランの薬剤師や看護師が担っているケースが多いことや、SMOのCRCが主流なため、募集が掛かるのは稀(まれ)です。
治験コーディネーターになる人は、臨床経験が浅かろうが長かろうが、CRC未経験からスタートする人が殆どです。
そして治験コーディネーターの役割は、治験を「安全」に「円滑」に行えるようにサポートすることがメインだから、その本領を発揮するには臨床経験よりも「協調性」が一番大事だったりします。
これは「『イエスマン』になれる人が良い」という意味でもなくて、何か困難なことが生じても”調整”できるような「協調性」つまり人柄が大切なのです。なのでCRCの入職前に何かバックグラウンドが必ず必要という訳ではありません。
治験コーディネーター(CRC)に関係する資格って、何があるの?
治験コーディネーター(CRC)になったら、取得を視野に入れたい2種類の資格
CRCの経験を2年くらい積むと、必ず職場から日本SMO協会(JASMO)の公認CRCまたは日本臨床薬理学会の認定CRCの試験を受けることを勧められます。
公認CRC 認定CRC
JASMO公認CRCと薬理学会の認定CRCを取得するメリット
《資格の取得をするメリット≫
- 治験の大きな流れを理解できる
- 対外向けに”ハク”がつく
- SMO企業への転職に有利
CRCの資格がある利点①治験の大きな流れを理解できる(その1)
1つめの「治験の大きな流れを理解できる」は、正しくその言葉通りの意味です。
実は、治験コーディネーター(CRC)の仕事にやり甲斐を感じるようになるのは、恐らく3年目以降になります。2年までの間も勿論、色んな経験を積む過程で「やり甲斐」を都度抱くことはあります。
しかし、本当の意味でCRCの仕事に「面白さ」や「やり甲斐」を感じることができるのは、入職したての時ではありません。その理由は2つあります。
1つ目は、CRC業務を理解するには時間が掛かるからです。ただ、誤解はしないでください。CRC業務を3年間できないという意味ではありません。CRCの仕事は入職後すぐにできます。
どういう意味かというと、企業へ入職し、(マナーを含めた)新人研修が終了すると、まず新人CRCは「治験実施計画書(プロトコール)」と「説明同意文書(IC文書)」を渡されます。これらは、OJT目的で先輩CRCが担当している治験の冊子になります。
実は、この2冊を読み込むことで、その治験に関するルールやスケジュールが分かり、ある程度の業務の流れを理解することができます。ところが、入職1年目~2年目のCRCには、日々の業務が流れ作業に見えてしまうことが多いのです。
もう1つの理由は、私が個人的に恐ろしいと思うことでもあるのですが・・先輩CRCが「治験コーディネーターの仕事=人を治験に参加させなければいけない仕事」だと、新人に思わせることです。
先輩が既に準備を整えた単調な仕事を除いて、新人が一番最初に難関だと感じるのは、患者様あるいは健常者のかたへの治験説明と同意(IC)になります。
治験は自由参加なため、断られることがあって当然なのですが、治験は、治験に参加してくれる被験者さん(患者様あるいは健常者)がいなくては成り立たないため、「絶対参加させなくてはいけないもの」「治験参加の同意を得ることがメイン」だと勘違いしてしまう新人が中にはいます。
治験は「治験参加への同意取得を取るための努力」はすべきですが、「治験に参加させなくてはいけないもの」ではありません。担当する治験の種類によって参加率が異なることはよくあります。
治験はあくまで「自由参加」です。期待できる効果や考えうる不利益を全て説明し、治験の説明を受けた人は参加をするかどうか、「選択」できるのが治験です。
安全に被験者さんへ治験に参加頂くために、治験実施計画書を読み込み、思いつく限りの対策をした上で、治験に参加するメリット・デメリットを説明する。その上で参加を選択してくださった被験者さんには、安心して最後まで参加して頂くために安全確保や信頼構築に努めることが大事なのです。
なので正直いうと、患者様(被験者さん)の対応時を除いて、CRCがCRC業務で一番力を入れているのは、医療機関でAという治験の実施が決定してから、開始するまでの準備になります。
この事前準備のタイミングを「早めに見る」という機会を逃すと、新人CRCがCRC業務の一連の流れを理解するのに時間を要してしまいます。何度も言いますが、CRCの業務が理解ができないからといって、仕事ができない訳ではありません。先輩CRCの指示通り、あるいはマニュアル通りに単調な仕事をこなせば、問題も起きようが無く、仕事そのものはできるからです。
新人は入職してから約半年くらい経つと、担当する案件(治験)を貰えるようになります。この時も先輩CRCが付いていますが、恐らく2~3本を実際に自身も担当してみてから初めて、本当の意味でCRC業務の全体像を自分なりに理解できるようになります。
治験は長期間を要する試験であることが多いです。受け持つ担当の案件(治験)の経験を積み、CRC業務の全体像を掴むまでには約2年掛かります。
CRCの資格がある利点①治験の大きな流れを理解できる(その2)
治験はCRCが関わっている期間やCRC業務だけで成り立っている訳ではありません。治験を医療機関で実施するためには、さまざまな工程が存在します。
また、ある医療機関がAという治験を実施すると決まるまでの過程や、決定後にも、沢山の決まり事(お作法)も存在するのです。
これは、治験に協力してくれる患者様(被験者さん)が、安全に安心して治験に参加して貰えるように、倫理的な背景から守らなくてはいけない”手順(お作法)”になるのですが、その流れを「治験の依頼等に係る統一書式」で確認(理解)することができます。
たとえば、A治験をBという医療機関で実施するためには、Bで働く職員が「治験やろう!」と言うだけで決定する訳ではありません。必ず、Bの院内で委員会を開催し、必要な審査をした上で決まります。また、A治験の実施が決まったとしても、治験実施期間中にも中間の審査を行い、安全配慮の観点から継続してOKなのか、中止すべきなのかどうかも審議されます。
その時に最低限必要な書類が、「治験の依頼等に係る統一書式」なのです。
この書類は、昔からいるCRCの間では必須文書とも呼ばれ、数十種類あります。「治験の依頼等に係る統一書式」の「どの書類」が「どんな場面」で発生するのか、「なぜ」「●●の段階を踏む必要がある」のか、「治験が医療機関でどのように実施されている」のか、その全体像を理解するのに役立ちます。
現場では、上記のお作法を知らなくても、被験者様(患者様)を危険に晒さず安全に、且つ計画書(プロトコール)通りに治験を実施できてさえいれば、周囲からは一見「CRC業務を行っている」とみなして貰えます。
また、十数年前まで、統一書式の書類作成を支援する業務はCRCが担っていました。しかし最近では、CRCとは別に、SMA(治験事務局担当者)という職種が担ってくれるようになったため、新人CRCが統一書式を確認し、治験全体を理解する機会が減りました。
監査やSDV対応時に備え、CRCが統一書式を確認する機会は確かにあります。しかし、どんな意図で統一書式が発生しているのか、それを現場で教わらずに分からないままの場合、あるいは座学だけで教わった場合、新人CRCにとっては単なる「書類のやり取り」になってしまうため、意識の仕様がありません。
認定資格の勉強をする機会は、統一書式についてを再確認できるため、「治験の大きな流れを理解する」きっかけの1つになります。
CRCの仕事に慣れてきた頃こそ、日々の業務を振り返り、1つ1つの業務の意味を再確認することで、より治験への理解が深まり、そのことがやり甲斐へも繋がるので、資格を取得するメリットの1つとして挙げました。
CRCの資格がある利点②対外向けに”ハク”がつく
そして、資格の取得をするメリットの2つ目は、「対外向けに”ハク”がつく」があります。
自分の名刺に資格が追加されることもですが、CRCの資格を持つことで、自分の受け持つ案件の質(難易度)も変わることがあります。
SMOのCRCは治験を実施する医療機関へ赴き、サポートするのが役割だとお話をしました。その際、医療機関によっては出入りするCRCに条件を付けるケースもあるのです。
条件を付ける医療機関からは、CRCの経験年数やJASMO公認CRC、もしくは薬理学会の認定CRC取得者を求められることがあります。その場合、新人CRCの多いSMOでは対応できないため、比較的経験を積んだCRCの多いSMOなんかでは「ウチにはこんなCRCがいます!」と、差別化を図ることができます。
その医療機関から出入りを許されたSMOの会社は、社内にいる(CRCの資格を持つ)中堅クラスのCRCにその医療機関へ行ってくれないか?と、まず声を掛けます。声を掛けられたCRCが「OK(行くよん♪)」と返事をしたら、CRCは会社が契約したその医療機関へ出向くというイメージです。
感触としては、抗がん剤など、難しい治験に関わるような大学病院や大きな病院から、条件が付くことが多いです。そのため、色んな領域・種類の治験支援の経験を積むには、資格を持っていた方が多様な案件(治験)を会社から振って貰えます。
まぁ・・・大きい病院ではなく、アットホームなクリニックでのCRC業務を希望するCRCもいるので、いくら資格があろうが経験があろうが、会社から打診があっても断るCRCは勿論います。因みに断っても、他のCRCが担当するので、何か会社から不利益を被(こうむ)るといった話は今まで聞いたことはありません。
CRCの資格がある利点③転職に有利
資格の取得をするメリットの3つ目は、「SMO企業への転職に有利」があります。
CRCは良くも悪くも、正直転職組が多い(笑)
理由は多々ありますが、その1つに「1つのSMOで経験を積めば他のSMOでもやっていける‼」という強みがあるからです。
ただ、CRC経験のある人が転職するのであれば、CRCの経験2年以上が好ましいので、受験要件が「CRC実務経験2年以上」であるJASMO公認CRCを持っておくと断然転職に有利となります。